留学体験記

関根 鉄朗 (現:大学講師)

2014年11月-2016年3月まで、スイスはチューリッヒのUniversity Hospital Zurichに留学しましたので、御報告させて頂きます。

留学中の研究について

現地では、当時、ヨーロッパ第一号機であったPET/MR一体機を用いた研究に携わりました。留学中のメンバーは私の他にM.D. (医師)の研究者が2人、Physicist(基礎)の研究者が2人、留学生が1人との少数精鋭でした。

チューリッヒ大学病院のメンバー

チューリッヒ大学病院のメンバー

比較的自由にテーマを頂き、1年4ヶ月の留学期間で7本の論文を筆頭著者として発表しました。内容は頭部吸収補正の基礎検討、腫瘍診断能の臨床評価、低被曝プロトコルの検討、などです。特に頭部吸収補正の基礎検討は米国核医学会での銀賞受賞の後、核医学部門のtop journalであるJournal of Nuclear Medicine (Impact factor 6.646)に1年間で3本の論文が掲載されました。これは相当の快挙だった様で、PET/MRセンター長のDr. Patrickからもtrack recordだ!”と祝辞を貰いました。他の論文もRadiology (Impact factor 7.608)やClinical Nuclear Medicine (Impact factor 6.498)といった一流紙に採択されました。

この様な成果を出せたのは、大学院時代の天野先生を始めとした医局の研究教育体制や、留学中にも学術内容について気軽に相談出来る医局員の先生の存在が大きかったです。これらのサポートが無ければ、ここまでの成果は出せなかったと思います。

留学中の生活について

渡航時には既に妻が身重で、妊娠30週を超えていましたが、幸い、周産期のトラブルも無く、安心してお産を迎える事ができました。妻も産休-育休期間を私の留学期間に充てる事が出来、また、比較的時間に余裕がある留学中に育児に積極的に関わる事が出来た事は幸運でした。

2016年帰国前に息子が生まれたチューリッヒ大学病院にて

2016年帰国前に息子が生まれたチューリッヒ大学病院にて

チューリッヒは物価が非常に高い(ランチのパスタワンプレートで3000円くらいでしょうか)所です。贅沢は出来ませんでしたが、時差が無くヨーロッパを旅行出来るチャンスでしたので、週末を利用してはヨーロッパ中を観光して周り、10カ国以上を観光しました。

金銭面についてですが、医局で留学助成の情報を教えた頂き、院内・院外の助成を得られました。また、留学中に良い条件の遠隔読影の非常勤を優先的に割り当て頂きました。このため、大きく困る事はありませんでした。

帰国後について

留学先で学んで来た内容を本邦のワーキンググループ・ガイドライン策定委員会・学会などで成果発表を行いました。これらの成果が評価され、放射線学会総会での3年連続の学会賞受賞、核医学会でのリターニー賞受賞などを受けました。他にも複数の英語教科書の原稿執筆や、IAEA (国際原子力機関)のワークショップでの講演の機会を得ました。留学先で学んだ事を還元出来る機会を持てた事は大変に幸運でした。

留学中に御縁があった研究者とは留学後も研究を継続しています。具体的にはケンブリッジ大学やMayo大学の研究者と、頭部PET/MRの基礎検討を発展させ、論文発表を複数行っています。また、留学中に懇意になったZurich在住ベンチャー企業であるPmod社やGyrotools社の研究者とも交流/共同研究が続いており、彼らが日本に訪れた時には日本医科大学のメンバーで彼らと一緒に食事をしたりもしました。

Gyrotools社 Gerardさん来日時

Gyrotools社 Gerardさん来日時

日本核医学会でのリターニー賞受賞時の日本核医学会にてPmod社スタッフと

日本核医学会でのリターニー賞受賞時の日本核医学会にてPmod社スタッフと

留学中の業績を活かし、競争的研究資金の獲得にも積極的に取り組みました。複数の財団や科研費助成事業から、研究計画の採択を頂きました。この場を借りて、改めて感謝申し上げます。これらの研究資金や科研費資金を用いまして、恵まれた環境下で研究を行っております。

終わりに

留学にあたっては、留学先の選定・金銭面や学術面でのサポートなど、医局の先生方の様々な御支援を頂きました。また、現地滞在中には、多くの人に有形・無形のサポートを頂きました。一家で楽しく留学生活を送りながら、大きな学術成果を得る事が出来たのは、これらの御支援の賜物と思っております。末筆ながら、この場を借りて感謝申し上げます。

引き続き、これらの経験を後進に伝えつつ、医学の発展へ貢献していきたく思っております。